
▲洋書”Jet-Age Jamborees”にのみ収録が確認されている複葉機。正しくは”Beechcraft”である……
【概要】
・この機体は、”スタッガーウィング”のニックネームを持つ、通常の複葉機と異なり下翼のほうが上翼より前進した設計が特徴のクラシックな飛行機である。ガンダムシリーズのファンであれば、『機動戦士Zガンダム』で、カラバのベルトーチカ・イルマがアウドムラに着陸してきたアレ、と言えば伝わるであろうか。
・軽飛行機といえばセスナ・エアクラフト・カンパニーの航空機から「セスナ」の名が広く知られているが、そのセスナ社と同時期に発展し、独自の航空会社として設立されたのがビーチ・エアクラフト・カンパニーだった。この創立者ウォルター・ビーチが独立して最初に開発した航空機が、このC-17であったという。(16番目までは前の会社で作ったから17始まりなのだとか)
・上下の翼を“逆”にずらしたスタッガー(ずらし)ウィング(翼)であるため、離着陸の上方視界に優れた航空機であったという。操縦性も良く、米空軍にも「トラベラー」の名で小型連絡機として採用され、多数生産された
・この紙飛行機はそのC-17のプロフィル・モデルであるが、いかんせん1960年代末に海外向けに発売された洋書である『JET-AGE JAMBOREES』にしか掲載されなかったようである。月刊誌『子供の科学』はもちろんのこと、よく飛ぶ紙飛行機集にも掲載されなかったため、存在自体、余り知られることは無かったんではなかろうか。少なくとも筆者の探索能力は、近年になって
例の町田さんの紙飛行機リストを拝読してようやく存在を知った程度である。この仮説が正しければ、このC-17の型紙に出会うには洋書『JET-AGE JAMBOREES』を探して、必要ならば海外から取り寄せてでも買ってくるしか無い。輸送費だけで大金がかかるので覚悟は必要だが、この本にはそれ以外にも貴重な機体が掲載されているので、コレクションする値打ちはあるだろうと思う。しかし……ここまでくると、おいそれと、他人にお勧め出来るレベルでは無くなってくる。
【作り方・飛ばし方】
さて、このC-17だが、残念なことに型紙全体が無視できないレベルの誤差で溢れている。なんぼ初期でも、二宮先生の型紙はそれなりにはピシっと一致するくらいの精度である事が殆どなのだが、この機種は率直に申し上げて、ひどい。よほど時間か体力が無い時に型紙を写し取られたとしか思えない。

▲どの程度ズレているかは、この重ね合わせをご覧になれば伝わるであろう。多数の誤差に萎えたヤル気を鼓舞するため、オリジナルの型紙パーツを全て乗算レイヤーで重ね合わせてみたことがあるが、誤差が折り重なって輪郭が「ごんぶと」になってしまい、却ってゲッソリしたものである。
なぜゲッソリするか? それはもちろん、
通常の単葉機と比べて、型紙の誤差で歪むと途端に飛ばないポンコツと化すのが複葉機の常だからだ。
▲見た目は揃って見えるんだけど、拡大すると・・・水平尾翼パーツも2枚の胴体パーツのみで出来たスリットに差し込んでノリを流し込んで固着させといてね? という突き放しっぷりであり、取り付けにくい主翼の支柱パーツ、機体サイズにまるで合っていない巨大なおもり穴加工+調整も含め、近年のお優しい設計の機体に手慣れた諸氏にとってはだいぶハードな工作になるのは間違いないであろう。作る時は、板鉛と工作時間を沢山準備して臨もう。
【滞空性能】
元々複葉機というだけで、空気の粘性、流体力学の用語でいう「レイノルズ数」によって表現される空気の粘り気の都合で、紙飛行機の性能はガタンと落ちてしまう。その上この機体はたいへん短い機首に大量のおもりを詰め込んでおり、完成時の機体重量が高くなってしまう。そのため、沈下率は高く、高めに打ち上げても空気に負けて、割合すぐ下降してきてしまう傾向にある。おもりを大量に使用するので、複葉機の割に風には強めだが。期待できる滞空時間は精々10秒程度ではないだろうか。指定重心点よりおもりを減らし、ピッチングは水平尾翼で調整し、少しでも重量を落として滞空時間の延長を狙うほうが良いかも知れない。
なんにせよ、胴体の貼り合わせ枚数が6、尾翼付近の枚数2というのは強度の面でも厳しい。そのままの設計だと、単に手投げで数秒飛ばして楽しむだけの機体になってしまう。
【改造ポイント】
何よりもまず、ズレまくりの型紙の修正。そして元ネタが非常に古い書籍であるので、汚れやかすみの修正が必要。加えて型紙にうっすらと色がついていて邪魔なので、これの除去を行いたい。その上で胴体貼り合わせ枚数は7として尾翼付近の貼り合わせ枚数を5に増やし、ゴムカタパルト(超ショートな機首だがなんとか取り付けることは出来る)射出に耐える胴体にしてやる。主翼の補強は人の好みが出ると思うが、筆者は上下いずれもそれなりの強度をもたせることにした。
▲左側の部品:汚れ除去済。右の機首は修正前
▲ここまでクリーニング+改造するのに、やる気の補充も含め2年近く掛かってしまった
▲C-17の画像でよく見かける黄色のペイントにしてみた。【総評】
美しく、また小型でかわいい飛行機であるため、大金を積んででも型紙を入手したい!とお考えの諸氏には良いかも知れない。しかし、完成~飛行に至るまでのハードルが高い。もとの設計のままでは誤差に泣かされ、各部の強度不足に不満を持つ結果になるのではないか、と思う。改造の心得のあるかたなら上記程度の改造は楽に行えるだろうが、そこまでの愛情をこのC-17に抱けるかどうかにかかっていると言える。
結論としては、
「良い形してるが普通のかたには到底お勧めできない」
となる。
▲美しいんだけどね・・・