
二宮先生の初期の紙飛行機は良い意味で荒削りで、様々なバリエーションを試そうというアグレッシヴさが魅力である。この小型 円形翼機もそんな珍紙飛行機の一連の作品だと考えている……。
紙飛行機が安定して飛行するのは、考えてみれば当たり前だが縦方向モーメント(ピッチング)と左右方向モーメント(ヨーイング)、傾きのモーメント(ローリング)の釣り合いが取れているからである。主に主翼で揚力を稼ぎ、その揚力ゆえに上下方向に揺さぶられるピッチングを水平尾翼で抑え、適切な重量配分と尾翼面積、取り付け角である時にそれは安定するようになっている。紙飛行機は空に浮かぶ物体Xである。常にバランスを崩そうとするが、紙飛行機が慣性の法則に従い飛行している間は、左右方向のブレは垂直尾翼が抑えにかかる。流れる川に板をさらしたら川の流れる方向に板が向くのと同じなので、直感で判る方も多いだろうと思う。傾こうとする力に対しては、主翼に上反角をつけることで、例えばネックレスのチェーンを持つと重い本体が下にぶら下がろうとするように、機体を元の傾きに戻す力が作用する。そんな感じに「3軸」で支える紙飛行機は、てこの原理から主翼と尾翼が離れているほど、安定しようとする力が相対的に高まる性質を持つ。
はて、ではこの小型 円形翼機は安定して飛行するのだろうか?
答えは残念ながらNoである。
この機体は無尾翼機の一種で、主翼と水平尾翼が合体したような扱いの円形翼を持つ。ゆえに、水平尾翼は持たない。円形翼の後端を2mmほどねじり上げてやらないと主翼に迎え角を付けたことにならず、只でさえ低い滑空性能は更に低下する。要するに、飛ばない。ねじり上げてやっても、限りなくピッチングモーメントを処理する性能に乏しいため、重心点を調整したとしても、ちょっとの風や旋回でカクンカクン機首を細かくピッチングさせ、沈下していく。主翼の長さも短いため上反角による安定効果も低下、ぬるい上反角では激しい射出(カタパルトを後付けしたとして)や横風に耐えきれず、横転して墜落してしまう。失速にも脆く、大きく機首を落として高度を下げ、波打つようにピッチングの軌道を描いて落ちてしまう。マトモに滑空させるには、うまいこと旋回させながら上昇させるしかなく、風の強い日は飛ばすのを諦める(敢えて舞い踊るこの機体を楽しむという変態的な嗜好を持つ場合を除く)くらいの割り切りが必要な、"よく飛ぶ紙飛行機集"の名に似つかわしくない、あまりよく飛ばない紙飛行機なのである。
その不安定と飛ばしにくさのせいか、この小型 円形翼機は第1集の型紙でのみ掲載され、以後他の書籍に登場することはなかった。(子供の科学の連載はあったんだろうね……)この機体は小型競技用機、小型ソアラー、小型軽飛行機、小型超音速ジェット機と共に初期の初心者向け小型機の兄弟シリーズであったろうにも拘わらず、である。製作難易度で言えば、尾翼が2枚あること以外は何の難しさもなく、少ない部品点数で出来上がる。ハサミでのカットも容易で、初心者でも容易く仕上げることができるだろう。型紙デビューのみで紹介されなかったのは残念だが、後の紙飛行機が明らかに滞空性能に重点を置かれていったことを考えれば、こういった、性能度外視のいわゆるネタ機の紹介機会が減ったのも致し方ないのかも知れない。
【飛ばし方】とにかく失速に気をつける。飛行姿勢を崩すとガクンと高度を落とすため、上反角は取説指定より高めの12~15度とし少しでも左右方向の安定性を高めてやり、むやみに力を入れて飛ばすより、キレイに旋回させながら上昇するよう発進させる。カタパルトを付けた場合、垂直発進のような滞空競技用機の真似事は不可能なため、大きく旋回するよう左右方向を微調整し、射出時にはその反対方向に傾けて飛ばす。注意点として、主翼が脆弱な一枚張りなので強く投げないようにする必要がある。カタパルトを使いたいなら主翼は2枚張りとして補強すべきである。
▲この円形翼が、この紙飛行機の存在理由の全てと言って良いフォルムである。
【滞空性能】目標滞空時間は10秒程度と見込まれる。
残念ながら沈下率が高い、いわゆる「落ちてくる」機体のため、極端な話、投げあげて飛行姿勢に移ってからの高さで秒数が変わる。仮に上手く高い高度で滑空させられたとして、それでも20秒以上滞空させることは難しいだろう。超えたなら是非その映像を観たいものである。
【改造ポイント】たくさんある。まず機首の張り合わせ枚数を増やしおもりレス化。カタパルトフック取り付け、のお手軽改造から、主翼の補強、垂直尾翼取り付け部の改造……と、さまざまな箇所に手を入れられる。
▼例
【総評】作るのは簡単だが、そのままだと余り飛ばないな、で終わりがちな難しい機体と思える。飛行安定性は低く、主翼強度が足りず、特に胴体後端から垂直尾翼までの部分が弱いため、無改造では軽い手投げを楽しむ程度にとどまる。
それでもこれを作りたくなるのは、ひとえにこの機体が可愛く、面白い形からである。普通型の飛行機とは全く異なる、特徴的な丸い翼。先生はきっと、こんな円形でも飛ぶことを示すために設計されたに違いない。作るのが簡単なので初心者が手を出しやすいのは確かだが、いつも滞空型競技用機ばかり作り、何分何秒滞空させることばかりを考えている中上級者のかたに、敢えてお勧めしたい作品である。
1. こんにちは
よく飛ぶ紙飛行機への道
というコラムがあります。
参考になれば。