【概要】以前のエントリーに書いたように、二宮先生は無類の練習機(トレーナー)、ソアラー、軽飛行機好きでいらっしゃる。2020年にもなった現代でどの程度ソアラーが人気を博し、ウィンチや曳航で大空に飛び上がっていっているのかは筆者は存じ上げない(お金持ちになったら是非やってみたいですね!!)が、高いアスペクト比から生み出される高揚力の長大な主翼がもたらす無限の滑空(モデルによっては延々と滞空していられるらしい・・・すごい)に魅せられるかたは今もいらっしゃることであろう。この「スリングスビー・ダート」は、1970年代に「子供の科学」および「よく飛ぶ紙飛行機集」に掲載されたくらいなので結構なヴィンテージだが、今もレストアして保存しておられるかたがいらっしゃるほどだから、名機だったのだと思われる。二宮先生の紙飛行機作品としては、このような本当の「ソアラー」に見られるような高アスペクト比の主翼を持つモデルは、この第3集掲載の「ダート」を最後に見られなくなった。恐らくは紙飛行機の性質上、あまり高アスペクトにしても主翼がフラッターを起こし高く上昇させられず、緩い滑空を楽しむにとどまること、また華奢な主翼ゆえに破損しやすくメンテナンスにも気を遣うからであろうと思われるが、長い主翼のソアラーが滑空する姿は非常に美しく、優雅であり、滞空時間がどうだの、飛行距離がどうだのを超越した魅力がある。そのまま埋もれさせるには惜しいプロフィル・モデルなのである。今後、二宮先生の過去作品集が発表されることがあれば、ぜひソアラー型のモデルを漏れなく掲載頂きたい次第。
二宮先生の高アスペクト比のソアラー型紙飛行機は、定番の名作「小型 ソアラー」からはじまり、第1集型紙の「スリングスビーHP-14C」、第2集の「三田3型改」、そしてこの第3集掲載の「ダート」。当方が知る限りこの4機種である。先生の「子供の科学」連載の最後期に掲載されていたソアラー型競技用機を除けば、実際は作品数としては多くはない。先生的には、三田3型改で極端に長大な主翼のソアラーをお作りになり、一定の満足が得られたのかも知れないが……個人的には、もっと先生のソアラー型プロフィル・モデルを見てみたかった気がする。
※ソアラーはデザインで特徴を出すのが難しく、画一的になってしまうところはあるのかも知れない。
【作り方・飛ばし方】
オリジナルの「スリングスビー・ダート」は胴体が5枚重ね、他パーツもやや華奢ながら単純に出来ており、製作に苦労することは余りない。重心点が前方寄りの設計だが機体の後半部が非常に軽量に出来ているため、クリップを2個程度つければおおむね重心点で釣り合うように出来ている。主翼が高アスペクトのため、なんでもカタパルト発進させなければ気の済まない好き者以外はカタパルトフックを付ける必要もない。工作単体の観点で申せば、難易度は高くないと言えるだろう。
他方、短く複雑でもない胴体の曲がりの修正はともかく、やはり長い主翼が歪みやすく、事前のねじれ・歪みの修正は時間をかけてキッチリやる必要がある。このような細い主翼(に限らず、競技用機を含めた華奢な部品を持つ紙飛行機)を取り扱う時は、組み付ける前の段階で半分は勝負が決まっていると思って良い。つまり、セメダインCで主翼と裏貼りを接着してすぐ胴体に張り付けるようなせっかち工作をする場合と、完全乾燥までしっかり待ち、貼り合わせの時点で主翼をキレイに真っ直ぐにする場合とでは得られる結果が大きく違う、ということである。加えて、主翼には、ドバっとはみ出して表面が多少汚れても構わないので、十分な量のセメダインCをムラなく塗って貼り合わせることが他機種よりもシビアに重要となる。このことは意識したほうが良いだろう。細い主翼の機体で塗りムラが起きるということは、そこを起点に折れやすくなることに結びつく。他のタイプの紙飛行機も同様であるが、ソアラーの主翼ではそれがより顕著に起きるのだ。
調整が終わった機体を飛ばすにあたっては、当たり前だが強い力を主翼に与えないことが重要となる。ソアラーは高い高度まで打ち上げることは出来ない。強いゴムで強引に発射したところで、主翼が大きくたわみ、おかしな軌道を描いて墜ちるだけである。競技用機打ち上げ用の強力なゴムカタパルトは使わず弱めのゴムをセッティングしたカタパルトを別途用意して、最初は緩く発進(手投げでも十分であろう)させ、徐々に強く飛ばしていき、このへんかなという限界点を自分自身で感じ取るのが良いと考える。
【滞空時間】
素直に滑空している時だけを見れば、競技用機顔負けの低い沈下率であり、長時間の滞空を狙いたくなる機体である。二宮先生の他のソアラー「小型 ソアラー」「HP-14C」、「三田3型改」も素晴らしい飛行をするのだが、この「ダート」もそれらに負けない滑空を見せてくれる。(個人的にはこの「ダート」の横顔(プロフィル)が最も好きである。)しかし、ソアラー型の宿命として主翼のフラッター限界があり、競技用機のように胸のすく高度までゴムカタパルトで打ち上げることが出来ない。なんとももどかしいジレンマであるが、このソアラーを美しく、長い時間滞空させる手段がない訳ではない。場所を選ぶことになるが、下り坂のある原っぱのてっぺんから下に向かって真っ直ぐ飛ばすことで、思わずニヤリとしてしまうほどの滞空時間を出してくれる。これは、同じく高アスペクトの細長い主翼を持つ第2集掲載の「航研機」も同様である。厳密な意味で競技用機の滞空時間と比べることは出来ないが、この手段で飛ばした場合は、風さえ吹かなければ下り坂の終わりまでゆったりと、その気になれば1分以上でも優雅に滑空を続けてくれるだろう。ソアラーの神なる滑空を楽しめるのでお勧めである。

▲このような都合の良い地形はなかなか無いが、もしあれば挑んでみて頂きたい。(山はダメ。ロストしちゃう。)
【改造ポイント】
考えられる改造ポイントとしては、まずは定番ではあるが水平尾翼付近の胴体の補強。これは、オリジナルでは胴体最外部となる部品④および⑤の後部を延長し、水平尾翼の裏まで延ばすという手で対処が出来る。おもりレス化についてはややハードルが高い。重心点が前方25%タイプで、なおかつ機首が長くないためで、重心点にキチンとあわせるには機首の貼り合わせを10枚以上にする必要があり、あまり美しいとは言えない外観となる。割り切って板鉛を仕込むか、水平尾翼の設計を変更して重心点自体を後方に持って行くほうが良いと考える。この機体も「低翼トレーナー」や「小型 軽飛行機(第1集)」と同様、重心点が設計値が後方でも問題なく飛行はするため、機首貼り合わせ9枚としなるべく前方重量を稼ぎながらも、指定の重心点より後方5mm程度後方で釣り合う程度で飛ばすということもできる。筆者はこの方法でこの機体を作成した。また、この「ダート」も、先生の初期作品と同様にそれなりのズレがあり、気になる人は補正が必要になる。
▲補正例。これは、どうにかおもりレスに出来るよう、貼り合わせ枚数を増やしたもの。重心点には釣り合わなかったが一応飛行した。
【総括】
二宮先生のソアラー型紙飛行機の中ではオーソドックスなデザイン、かつ実在機のプロフィル・モデルとしても美しい作りの「ダート」型ソアラーは、他のクラシックの機体と同様に入手は最早容易ではない。まだ書店に在庫のある近年の先生の紙飛行機に比べ、洗練されていないところもあり万人にお勧め出来るかどうかは悩ましいところである。近年の紙飛行機は滞空型競技用機ばかりとなっており、このように優雅な飛行を楽しむモデルが逆にレアになってしまっている。こういう紙飛行機も楽しいんだよ、と思い本エントリーを書いた次第である。
