二宮先生は、無類の軽飛行機、練習機、ソアラー好きでおられる。子供の科学連載第1号は練習機である「トレーナー」であったし、続けて低翼トレーナー、高翼トレーナーが発表されている。筆者が知る限り、「軽飛行機」と呼ばれる小型飛行機を先生は「よく飛ぶ紙飛行機集」にほぼ欠かさず掲載されていた。この小型 軽飛行機はその先生の軽飛行機シリーズの最初期のものではなかろうか。これをベースとしたプロフィールモデルであるセスナ210センチュリオン、第1集と第2集に掲載のある高翼式軽飛行機(このあたりで先生は滞空型の軽飛行機に傾倒されていったように思える)、第4集の小型軽飛行機ときて、軽飛行機スペシャルである第6集では完全に"ふんわり"飛ぶ滞空型の軽飛行機が勢揃いした。この頃からのスタイルが今も続く二宮式の基本方程式になったように思う。
▼とんがった重心点ではなくなり穏やかな飛行を見せる、第4集掲載の小型 軽飛行機
▼更に水平尾翼の揚力を高め、重心点が後方に移動しおもりレスにもなった第6集の軽飛行機
▼最早、初期の先生の競技用機より滞空性能が高いであろう、近年の先生の軽飛行機

さて、これだけ長年作られてきた軽飛行機タイプの紙飛行機であるが、その最初期モデルであるこの第1集掲載版の飛びっぷりはどうだろうか?
重心点は先生の初期モデルに多い前方25%タイプ。取説にはクリップ1~2個とあるが大いなる嘘である。大型クリップを使うのでなければ少なくとも3~4個は取り付けなければ重心点で釣り合わない。この頃の先生の作品の適当さは後年見られないもので、これはこれで緩くて好きである。いずれにせよゼムクリップを4つも機首に取り付けたくはない。板鉛を仕込むか、張り合わせ枚数を大幅に増やしてなんとか機首を重くするしかない。
本当に前方25%で重心点を合わせると、その小型サイズに比べて割合しっかり飛ぶ挙動を示す。これも初期の先生の紙飛行機の多くに見られる傾向であり、多少の風には負けないある程度の速度、思ったよりも遠くに飛んでいく飛行距離型の特性によって「アレッ、あっちいってしまった」という俊敏さを実感できる。実はこの小型 軽飛行機についてはある程度重心点は後ろに置いても、つまりそこまでおもりを機首に積まなくてもちゃんと飛ぶし、おもりを削っただけ飛行速度は落ち、少し滞空型の紙飛行機の特性に近付く。しかし調子に乗ってはいけない。初期のモデルは水平尾翼が揚力を生まないと考えるべきで、おもり不足に陥ればやはりピッチング→降下の傾向が出てくるし、飛行が安定しなくなる。滞空型の紙飛行機が後方寄りの重心点で安定するのにはキチンと理由があるという訳である。この軽飛行機についていえば、先生指定の重心点より5mm程度後方でも概ね問題なく飛ぶ。ふんわり飛行がお好きなかたはこのあたりのセットがお勧めである。
【飛ばし方】オーソドックスな高翼式の普通型機であり、特に飛ばすのに苦労することはない。形が気に入るなら翼の折れやすい小型ソアラーよりも取っつきやすく、飛行を楽しめる機体と言える。滞空性能は競技用機ほどでないとしても割合高め、キチンと作れば驚きの滑空を見せてくれる優等生。高翼式なので元々ローリングに対しての安定性にすぐれるが、あまり上反角を強くしてしまうと軽飛行機らしさが失われ、美しくないので10°程度に抑えるほうが個人的には好み。元の重心点で合わせればそれなりの速度で飛ぶので、カタパルトフックを増設して思いっ切り射出しても楽しめるが、無改造だと尾翼付近の構造の弱さから軌道が狙い通りにいかなくなってくる。このあたりをカッチリ補強したらだいぶ、キビキビ飛ぶ快速機になると思われる。機会があったらやってみたい。
【滞空性能】平均値でも10秒は楽に超える機体である。大したことがないように思えるが、この機体が20秒を超えて空を舞っている姿は想像よりも感動的だ。ガツガツとやる気満々の競技用機と比べ、そんな風にはあまり見えないからかもしれない。無風の時にキッチリ調整して、カタパルトフックを付けて強力なカタパルトで高く放り上げてやりたいが、やはり胴体、特に尾翼の補強は必要。そこはやはり、1970年前後の初期の紙飛行機。突き詰めた飛ばし方をするならば改造は不可欠である。
【改造ポイント】 カタパルトフックのない簡易型ゆえ、まずこれは付けたい。その上で醜いゼムクリップの悪夢から逃れるため機首の部品を多数追加しオモリレスにしたい……が、何せ重心点前方25%である。紙のみで釣り合わせるのはそれなりに苦労することになる。個人的に重心点が40%より前方にある機体をオモリレスにするのはお勧め出来ない。機首を太くし過ぎると空気抵抗になるし、なにより釣り合わせられるバランスには限界があるからである。この機体についていえば、11枚張りの機首にしてやれば重心点まで釣り合わせることが出来る。元々部品点数の少なさ、お手軽さが売りの小型機なのに本末転倒であるが……紙飛行機をロストしたときの板鉛の環境への影響を気にする諸氏はトライしてみると良いと思う。カタパルト射出式に改造するならば、主翼の翼端まで二枚張りに補強すること、尾翼付け根の補強もお忘れなく。筆者は尾翼補強なしで改造したがやはり補強したくなった……。カタパルト射出と3枚重ねの胴体はあまり相性がよろしくないようだ。
▼これで機首は9枚張り。主翼は補強してカタパルトフック装着。この制作機はよく飛びました。
【総評】総じて安定し、優れた軽飛行機である。後年のより滞空性能の高い軽飛行機のほうが滞空時間は長いと思うし、水平尾翼が折れやすい欠点も無くはないが、部品点数が少なく、せっかちな初心者でもまず大きな失敗なく完成に漕ぎ着けられる取っ付きやすさが何よりの魅力である。まぁ、これとほぼ同型機である第3集のセスナ210センチュリオンを作れば良いんじゃない?という話になるかも知れないが……架空のモデルである創作紙飛行機には、それにしかない魅力がある。もはや入手は楽とは言えない第1集掲載機であるが、巡り会う機会があったかたは是非作ってみて頂きたい。きっとその飛行に満足できるかと思う。